最高裁判所第二小法廷 昭和29年(オ)132号 判決 1959年7月15日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人塚本重頼、同下山田行雄の上告理由第一点及び第二点について。
論旨は、要するに、行政処分の違法判断の基準時の問題について、原審がいわゆる処分時説をとつたことを非難するに帰するものである。
しかし、行政処分の取消または変更を求める訴において、裁判所が行政処分を取り消すのは、行政処分が違法であることを確認してその効力を失わせるのであつて、弁論終結時において、裁判所が行政庁の立場に立つて、いかなる処分が正当であるかを判断するものではない(昭和二六年(オ)第四一二号、昭和二八年一〇月三〇日第二小法廷判決、行政事件裁判例集四巻一〇号二三一六頁参照)。従つて、買収処分完了後売渡前において論旨の主張するような事情が発生したとしても、農地法(昭和二七年法律二二九号)八〇条、同法施行令一六条、農地法施行法六条一項一号に基き政府に対し目的地の売払いを請求するは格別、右事情が、ただちに、すでに完了した買収処分の瑕疵となるものということはできない。それ故、原審が処分時説をとつたことは正当であつて、論旨は採用することができない。
同第三点について。
論旨は、原審が開拓適否についての農地委員会の判断が同委員会の自由裁量に属すると判断したことを非難するのである。
未墾地買収は、「自作農を創設し、又は土地の農業上の利用を増進するため必要がある」場合に行われるものであり、右必要性の認定については、農業委員会は、目的地が開墾適地であるかどうかの点のみならず、目的地附近の社会的条件、国の農業政策、資源確保、災害防止の必要度等の諸要素を検討考慮する必要があり、したがつて、農業委員会に、以上の諸要素を基礎とした相当広範な裁量権が与えられていることは明らかである(しかし、自創法三〇条は、「自作農を創設し、又は土地の農業上の利用を増進するため必要がある」場合に限つて、土地所有者の意に反して未墾地買収を許す趣旨と解すべきであるから、農業委員会は、開墾して農地とすることが明らかに不可能または明らかに不法不当と思われる土地を未墾地として買収する権限を有するものと解すべきではなく、この限りにおいては農業委員会の裁量権には一定の限界があり、無条件に同委員会の裁量に任されているものと解すべきでないことは勿論である)。そして原審の認定する本件事実関係の下においては、被上告人農業委員会が本件土地の買収を認定したことがその裁量権の範囲を超えたものとは到底認められないから、原審のこの点の判断は正当であつて論旨は採ることができない。
同第四点について。
論旨は昭和二五年法律第一三八号所定の適法な上告理由に当らない(なお買収当時に開拓の予算が計上されていないということだけで、本件買収決定が農業委員会の裁量権の範囲を越えたものと解することはできない)。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)